中小企業で優秀な人材が定着しない理由は◯◯から始まる

 最近では起業・副業ブームの他に、早期退職し自分の人生を優先するFIREも注目されるようになりました。特に、優秀な社員ほど多様な可能性を持っているので、流出を食い止めることに頭を抱える会社は増える一方。
 しかし、中小企業と大手企業とでは、対策が大きく異なります。優秀な人材の定着率を高めるための注意すべき点を整理していきましょう。


 1 実は採用から始まっていた人材流出の原因
 2 現場が考える優秀な社員と会社が考える優秀な社員は違う
  2.1 マルチタスクが求められる中小企業の現場
  2.2 優秀な社員は全てで優秀という誤解
  2.3 成果が出ない焦りと評価への不安が優秀な社員のモチベーションを削ぐ
 3 採用のミスマッチを起こさないために

実は採用から始まっていた人材流出の原因

 優秀な人材が転職を考える時の主な理由は「正当な評価がされない」「キャリアアップが望めない」「会社との方向性の不一致」が挙げられます。
 しかし、中小企業では中小企業ならではの理由が加わってきます。

それは、採用におけるミスマッチ

 新卒採用と中途採用で違いはありますが、中小企業では新卒を採用し、教育プログラムを経て現場へ、というプロセスが規模やリソースの問題で薄くなりやすい傾向が見られます。ここをカバーするために、即戦力を求めて社会人としての、職業人としての基礎を持った経験者採用を取り入れるのがセオリーとなっています。転職サイトでも大手企業を2〜3年経験した第二新卒には今も高く注目されています。
 大手企業にて実績を挙げてきたならば、尚更、即戦力としての期待が高まります。
しかし、ここに落とし穴が。会社から見た優秀な人材と現場から見た優秀な人材の定義にズレが大きな問題になります。

現場が考える優秀な社員と会社が考える優秀な社員は違う

 履歴書、職務経歴書で書き連ねられた実績と、面接による評価で会社側は採用を確定します。また、転職者側も待遇、これからの自分の可能性、会社からの評価を期待して入社を決めることが殆どです。
 しかし、現場に出してみると、転職者側は会社が期待したほどのパフォーマンスを上げられずにつまずきが生じます。

マルチタスクが求められる中小企業の現場

 中小企業の多くでは、部門ごとに別れてはいても、一つの業務だけに集中して取り組める環境ではないことがほとんどです。企業規模が小さい分、人員にも限りがあり、完全な分業はできないため、一人で多くの役回りをこなすマルチタスクを求められます。
 大きな企業であればアシスタントに任せることができたことも、自分でやらなくてはならず、結果、仕事に追われる生活なのにパフォーマンスは向上しない、ということに陥ります。

優秀な社員は全てで優秀という誤解

 優秀な社員を採用できると企業側も受け入れる部署側もそのつもりで期待が生まれます。
 それは勝手に育ってくれる、という期待です。
 ですので、教育係を担当する先輩社員もその企業特有のルールや決まりを伝える程度で教育を終えてしまいます。
 一通りのことをいちいち教えなくても、できて当然という目で迎えていますので、当然と思うことに対しての完成度が低いと、これだけで大きくがっかりされてしまうことも少なくありません。ハズレくじを引いたかのような態度を取られることもます。特に非正規雇用者の多い環境であった場合、単純な作業は彼ら、彼女らの方が早く、正確にできることも多く、能力に疑問をもたれてしまうことが重なり、職場内での信用は一気に落ちます。
 また、これは信用を失うだけではなく、職場の待遇に対しての不満の火種となってしまい人間関係にもヒビが入りやすくもなります。

成果が出ない焦りと評価への不安が優秀な社員のモチベーションを削ぐ

 優秀な社員は自分のこれまでの実績に自負があります。しかし、慣れないマルチタスクを強いられ、思うようにパフォーマンスを上げられない状況から、周囲とのコミュニケーションが上手くいかず、早々に職場で孤立してしまいます。
 周囲も当たり前にみんなができることと感じているタスクが多いため、手を貸す必要性に気づくこともできず孤立が進み、さらにパフォーマンスが低下していきます。
 自分の力を知っているだけに、優秀であるはずのこの社員は結果が出せない焦りと、この会社での上司からの評価に不安を募らせ、さらに孤軍奮闘を続けるサイクルへとはまっていきます。このサイクルが材木にカンナをかけるように、じわじわと社員のモチベーションを薄く削いでいきます。人は必要とされて働くから輝きます。自分に必要性を感じなくなる、これは会社における死と、意識の高い社員ほど感じやすく、会社に身を置く意義を見失ってしまいます。

採用のミスマッチを起こさないために

 各部門ごとの人員状況を把握することはもちろんのこと、自社の風土、従業員の特性、社内コミュニケーション、評価システム、人間関係のネットワークなどを踏まえて必要な人材像を考える必要があります。
 そして優秀な社員だからこそ、採用後の育成に手をかける時間と丁寧にヒアリングする時間をとることが重要です。
優秀であることに会社が甘えてしまうことがそもそものミスマッチの原因です。優秀な社員は放っておいても育つのではなく、優秀な社員こそ、放っておいたら腐ってしまう、くらいの感覚でいた方が良いでしょう。
 人材育成に投資が難しい環境ですが、新卒採用であれ、中途採用であれ、優秀な社員は「育てられて優秀になる」を忘れないことが大切です。