中小企業でHRtech、システムを導入してもうまくいかない理由と活用のポイント

 一言でHRteckと言っても人事領域の多様化に伴い、様々なテクノロジーが開発されています。中小企業にて導入しやすいものとして、多くの経営者の人が興味を持たれるのが「採用」「労務管理」「人事評価」でしょう。
 しかし、興味は持たれ、導入されることが多いものの、活かしきれずに元の手法に戻ってしまう中小企業が少なくありません。
 そこにはテクノロジー以前に大きな問題がいくつか潜んでいます。

今回は、その中の鍵となる
・強みであり、弱みでもある「職人気質」
・投資対象外となる「非生産部門」
・ITスキルが十人十色?
・情報整理のタコツボ化が共有財産を消失させる
の4つに焦点を当てて、HRtechの中小企業における有用性を考えていきます。

 1 強みであり、弱みでもある「職人気質」
 2 投資対象外となる「非生産部門」
 3 ITスキルが十人十色?
 4 情報整理のタコツボ化が共有財産を消失させる
 5 HRtech導入がうまくいかない理由にこそ、導入すべき価値がある

強みであり、弱みでもある「職人気質」

 まず、中小企業特有の風土によりHRtechが浸透しにくい、という理由が挙げられます。一言で言うならば「職人気質」。
新卒一括採用であったとしても即戦力化が求められる環境では、どうしても全体研修や研修プログラムによる統一された教育よりも、現場でのOJTが今も強く教育に重用されます。
 先輩社員、後輩社員での実践を通じた教育として新入社員の即戦力化として結果を出しやすいのは確かです。
しかし、メンター制度と言えば聞こえは良いですが、狭い環境での教育となるため、師匠・弟子に近い世界観が築かれやすい環境となります。
 教育係の社員より上長への報告はあるでしょうが、ここには教育係の主観と独自性、経験則が入りやすくなります。ここにHRtechを導入しての評価・研修・育成内容、フォロー内容とは親和性が遠く感じられてしまうようになりカタチだけの運用となり、また上長からのフィードバックも忘れられがちです。

投資対象外となる「非生産部門」

 人員、設備に限りのある中小企業においては利益と直結する業務こそ仕事、という傾向が強くあります。そのため、取引先とのお金のやりとりにも直結する経理部門以外、管理部門業務や関連作業には、従業員の時間投資がどうしても薄くなりがちです。特に後回しにされがちなのが、人材育成、人事評価、そしれこれらのフィードバックです。
 定期的な1on1を制度に組み入れても、準備がないまま行われ、単なる世間話で終わってしまったり、目の前の業務に追われて形骸化しやすくなります。

ITスキルが十人十色?

 PCスキルが従業員によってバラバラなのも中小企業の大きな課題の一つです。その人が学生時代から30代前半までにどのような環境でPCを利用し、インターネットを利用してきたかによって、操作方法から活用、作業工程が大きく異なります。企業によっては、PCやインターネットはほぼほぼ利用できない、という役職者が多く存在する場合も。同じシステムを利用しての管理体制が文字を一文字打ちこむ前の段階から暗礁となってしまうケースも見られ、紙資料への依存がさらに高まっていく結果に繋がりかねません。

情報整理のタコツボ化が共有財産を消失させる

 ITスキルが個々人により差があることと同時に、情報の管理・整理にも一貫性のない中小企業がまだ多く見られます。
大企業と違い、中小企業では従業員一人当たりがカバーする業務の幅が広く、そして一人で完結させて報告、または結果物だけが次に流れていくものが少なくありません。その上、一人に一つのデスクとPCが与えられ、それぞれが従業員個々人にカスタマイズされて利用されているため、社内で統一規格となっているフォーマット以外は、個人裁量で情報管理、整理がされていきます。良くありがちな「◯◯さんじゃないと分からない」という話です。従業員も自分自身の付加価値をつけるため、この「◯◯さんじゃないと分からない」という状況を作りたがる傾向も否めません。いうならば会社の中でタコツボのように一人一人が情報とスキルを抱え込む状態です。
 これらにより、中小企業内で管理される情報は重複情報が多く、利便性、安全性に欠けるという課題があります。

HRtech導入がうまくいかない理由にこそ、導入すべき価値がある

 中小企業においてHRtechが機能しない理由を見ていくと、そこには中小企業特有の場当たり的な活動に問題があることがわかります。社内で統一化することで従業員の手間を省き、時間を生み出す可能性を持ちながらも、自分ごとになりきれない環境を改善することからが第一歩でしょう。
 例えば、社内にて管理する情報に関し
・データの名前づけのルールを統一する
・社内書式、通信フォーマットを統一する
・個々人に用意されたPCのデスクトップには情報は保存せず共有サーバ管理にする
・PC内に個人フォルダを作らせない
などを定着させるだけでも大きく変化します。
 情報管理の共有化が進むと部署間、世代間でのコミュニケーションも円滑になり、連絡・確認による時間的ロスも大幅に削減することができます。
 また、その場、その場を重要視するあまり、振り返りが少ない環境も多く見られるのが中小企業。
報告されたもののフィードバックの習慣がない環境も少なくありません。ただでさえ、忙しいのに、時間を投資する意義を感じないという役職者・リーダーが多いと、そこでHRtechの運用は止まってしまいます。
「出されたものは、必ず適切にフィードバックする」という役職者、リーダーたちの行動もHRtechの活用には不可欠です。これを行動に移してもらうためには、経営者、役職者、リーダーの立場の人たちが、運用することで得られる具体的な「メリット」を徹底して炙りだり、そのメリットを得る実感を得ないと話が進みません。
 そのメリットの一つが「時間の創出」。これまで人間関係、人事評価、部下育成、労務チェックで費やし、使えずにいた時間をHRtechの導入で得る。そのためのアクションプランを作り、メンバーに周知し、PDCAと個人の感情に走らないよう相互評価を取り入れて適正な運用を試みることです。


 HRtech導入と活用は中小企業の抱えていた無駄をなくし、効率化を促進していくことの近道になるはずです。
 しかし、導入前に組織内で諸々の条件の整理が必要であり、これらを整えた上でのHRtech導入が不可欠です。